私、銀ちゃんの笑った顔、だいすきだなあ。
銀ちゃんの笑顔さえあれば、私なんでもできると思うよ。だから、ずっと笑っててね? 約束。 昔、にそう言われたことを思い出した。昔、と言っても、つい最近の話だ。でも、つい最近は“色んな事”が起きすぎたせいで、その出来事は随分昔にあったもののような気がした。 が倒れた。病名は難しくて覚えていない。でも、寿命はそう長くないらしい。一ヶ月。そう聞かされた気がする。 には両親がいなかったので、俺が代わりに医者から聞いた。その事実を、には言ってない。言うべきか言わないべきか、俺にはわからなかった。きっと、は感づいていないと思い込んでいた。だって、あまりにもは元気だから。まさかこんな元気な自分が、あと一ヶ月の命なんて、思ってもいないだろう。俺は勝手にそう思い込んでいた。 だけど、それは違っていた。 「銀ちゃん、私って、もうあんまり長くないでしょ」 はっとしての顔を見ると、はうっすらと微笑んでいた。ベッドの上で横たわりながら俺を見上げている。は呆然としている俺に「聞いてる?」と声を掛けてくるが、俺は何も言えなかった。しばらく俺の顔を覗き込んでいたけど、はにっこりと笑って言った。 「そんな正直な反応されたら、ちょっとショックだなあ…。わかってたけど、銀ちゃんならそんなことないって言ってくれると思ってたのに」 しまった、と思った。だけどもう遅い。俺はなんて失態をおかしてしまったんだろう。 「あの、、」 「もういいよ。ごめんね」 俺は結局無力だった。に何も出来やしない。代わってやれたらいい、と心の底から思う。でも、そんなの出来やしねーんだ。俺は、の死を見守ることしか出来ない。なんて無力なんだろう。 「銀ちゃん。私、銀ちゃんのことだいすきだったよ。今までありがとう」 いつの間にか、俺のそばにがいることは当たり前になっていて。の大切さに、俺はちっとも気付いちゃいなかった。はいつも俺に好きだと言ってくれていたのに、俺は一回も言えたことなんてなかった。最低だ。 なあ、俺。最後ぐらい、言ってもいいんじゃねぇか。 「…、俺も、 好、」 涙が出そうになった。好きだと言ってしまえば、自分は泣いてしまうと思った。あー、泣いちまうとかすげーみっともねーじゃん。でも、今となってはそんなこと関係ない。最後、せめて最後だけ、 「、俺お前のこと、」 私、銀ちゃんの笑った顔、だいすきだなあ。 ――――え? 不意に、の言葉が頭の中で響いた。昔、いや、つい最近に言われた言葉。そうだ、が倒れてすぐ。俺がまだ医者からのことについて何も聞かされていなかった時に言われた言葉。 なんで、今そんなことを思い出すんだろう。 銀ちゃんの笑顔さえあれば、私なんでもできると思うよ。だから、ずっと笑っててね? 約束。 なんで、 なんで、 なんで今、んなこと思い出すんだよ俺は。 「――――、今までありがとな」 泣いたらだめだと思った。あの言葉の裏にはきっと、「私が死んでも泣かないで」という意味があったんだろうと思った。はきっと、最初からわかっていたんだ。倒れたあの日から、自分はもう長くないということを。 好きだと言ってしまえば、俺はきっと泣いてしまう。との約束を果たせなくなってしまう。 俺は、好きという言葉を伝えることより、との約束をとった。 「お前がいてくれてよかった。ありがとう」 俺は懸命に笑顔を作った。があの日好きだと言ってくれた、俺の笑顔を。 「う、ん。 銀ちゃん、ありが、とう。 銀ちゃんは、 優しいね。 私、銀ちゃんのそういうところ、だいすきだっ、た、」 の目が閉じていく。 待ってくれ、まだ俺、お前に好きって伝えてない。でも言えない、言うことが出来ない。 おい医者、お前嘘ついたろ。一ヶ月って言ったじゃん、なあ。 一ヶ月って。 なのにはもう、 ――――ああ、もう、あれから一ヶ月なんて過ぎてたのか。一ヶ月ってもっと長いと思っていたのに。早いな。 「、好きだ、」 俺の涙が、の頬に滑り落ちる。は目を開けなかった。 なあ、お前はどっちのほうが良かった? 俺から好きって言われる事と、自分との約束を守ってくれる事。お前はどっちのほうが良かった? 俺は結局、お前との約束を守るほうを選んだけど、これで良かったのか? だけど俺にはもう、それを知るすべはない。 言えなかった言葉 ( なあ、お前は俺と一緒にいて、幸せだった? ) 07/09/22...なみさまへ |