終わりなんだな、と思った。
桜がひらひらと舞う。その花びらが、静かに地面に落ちた。
忘れるんだな、と思った。


何もかも、すべて。






勿忘草






だって、そうでしょう?
先生にとって、私なんか生徒の一人でしかないのに。だから、先生は多分、すぐに私を忘れるんだ。そして、ある日たまたま街で会ったとき、そこでやっと思い出すんだ。ああ、なんてヤツもいたな、と。




ももう卒業なんだな。早いねェ」
なんて言いながら、先生は私の頭を撫でる。


こうやって頭を撫でてもらうのも、これで最後なんだ。私は泣きそうになりながら、必死にそれをこらえた。




「元気でな」




やめて、そんなこと言わないで。私は、これからもずっと、先生に会いたいのに。






「せんせい…!」


私が先生に正面から抱きつくと、先生は笑った。泣くなよ、と言って、今度は強めに私の頭を撫でる。
先生、先生、先生、 何度も先生を呼ぶ。先生は笑って、ハイハイと答えてくれる。そうじゃない、私はそんなのを求めてるわけじゃない。


私は先生に、ずっと私を覚えてて欲しいの。




「いい加減泣き止めって。俺が泣かしてるみたいじゃん」




先生は、忘れるんだ。私のことなんか、すぐに。
私が先生に笑いかけたことも、私が先生に進路について相談したことも、私がこうやって先生に泣きついたことも、  私のことも、すべて。


先生は、忘れるんだ。ぜんぶぜんぶぜんぶ。






忘失。






私は一生、忘れることはないのに。 ずっと、ずっと、ずっと。